ポスドク1万人計画と博士の就職難

ポスドク1万人計画は、ポスドクの就職難という問題を起こしました。これは日本で理工系の優秀な人材がどのように扱われていくかを暗示しています。

大学院の博士課程を出た若い研究者に期待するポスドク1万人計画は、日本社会に良い効果を与えると考えられたものです。しかし、ポスドク1万人計画は、博士の就職問題、ポスドクが無職になる問題を見落としました。その結果、ポスドクの就職難、職に就けないポスドクが増加し、博士の地位は低下しました。ポスドク1万人計画は、博士の地位向上のための計画ではなかったのです。

昔は、博士と言えば、大変な権威でした。大臣と並び称されたのです。しかし、今や、博士と聞くと、無職者ではないか疑われ、まず職があるのかどうかを確認されるようになりました。博士課程に進むことのリスクは飛躍的に増大したのです。

これでは、優秀な人材が理学博士、工学博士に進むのを躊躇するようになるでしょう。大学卒業後5年も専門的なことを深く勉強した結果、結局のところ就職できず、無職、無業者、ニートになってしまうリスクを負うのは、人生の賭けでありましょう。

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I.ポスドク1万人計画後の博士のリスク

1.ポスドク1万人計画と、博士課程に進むことのリスク

 博士は、優秀な人が多いのです。さらに、大学の学部を出てから通常は5年も専門的なことを勉強します。奨学金等が受けられない場合、就職していればもらえたはずの収入を失うばかりか、学費に多くのお金を使うことになります。たとえば、仮に大学卒業後の1年間の収入見込みが500万円(給与、賞与の他、退職金増額分等を含む)、学費等が100万円とすれば、約3000万円を先行投資することになるのです。

 その博士が、ポスドクになり、最後は無職、無業者になってしまうとは、どういう事態でしょうか。企業は、高齢の博士を使いにくいと考えるかもしれません。そんなに優秀な人材なのに、なぜ高待遇で迎えないのでしょうか。

 企業としても、専門的な能力が生かせる職場であれば、博士を優遇することができるでしょう。しかし、そういう職場は必ずしも多くないようです。ポスドク1万人計画が実行された際に、ポスドクの就職難によるポスドクの地位低下問題は、十分に考えられていなかったようです。

 学部卒業から5年も勉強をして、その結果が無職、無業者、ニートになるのでは、人生を賭けたリスクになってしまいます。多額の先行投資を回収できないのは深刻です。かなり多くの博士が死亡ないし行方不明になっていると聞きます。優秀な人材は、このようなリスクを考えると、博士課程に進むのを躊躇するでしょう。優秀な人材が、次第に博士課程に進まなくなることは、大きな問題でしょう。

 ポスドク1万人計画の理念は良いものを目指しているのでしょう。しかし、ポスドクの就職先の問題が解決されなければ、博士の地位が下がってしまいます。それは、長期的には日本の科学技術に大きな悪影響を与えるでしょう。ポスドク1万人計画は、入口を述べました。しかし、ポスドクの問題は、入口の問題ではなく、出口の問題なのです。

 

2.ポスドクに関する計画は、理学博士、工学博士以外の者が決めている 

 博士の地位を決める政策を実行する高級官僚の多くは、文科系です。しかし、日本の将来のために、理科系の博士の地位の向上を、自分のことのように一心に願ってほしいものです。ポスドク1万人計画は、理学博士、工学博士のポスドクを高い地位にする計画でしょうか。官庁の指導層はほとんど文系であり、理系は多くありません。また、多くは学部卒であり、理学博士、工学博士はあまりいないのです。



 昔は、大臣とその地位を比較された博士です。それから年月が経ちましたが、大臣の地位は下がりませんでした。大臣の地位が下がるとは思えません。大臣は、政治的な力を持っています。ポスドク1万人計画はあっても、大臣1万人計画はありえません。また、大臣が、就職できないで、無職、無業者になることもないのです。大臣経験者なら、就職難はありえず、就職に困ることはないでしょう。

 誰かが博士の地位を下げる計画を実行しようとしたらどうでしょうか。ポスドク1万人計画の策定は、理学博士、工学博士の手によるものでしょうか。ポスドク1万人計画によるポスドクとなった博士の増大について、理学博士、工学博士の政治家が反対したでしょうか。ポスドク1万人計画が、ポスドクの増加を招くとしても、理学博士、工学博士は、なすすべもないのです。ポスドクの増員計画を、理学博士、工学博士は止めることができません。

 ポスドク1万人計画により、博士の地位は低下しました。博士号を取れば、大臣のように将来が安泰というわけではありません。博士号を持っていれば、大臣と同じように扱われるわけではありません。過去には、大臣と博士は並び称されたのです。しかし、今は、大臣と博士では、大きな差がついてしまいました。



 アメリカでは、博士号(PhD)を取ると学部卒(学士)や修士号を持っている人よりも、給料でかなり優遇されます。大臣並みとはいきませんが、日本よりはよいでしょう。日本では、博士号を取っても、給料はそれほど変わらないでしょう。そして、就職は難しくなる傾向があります。アメリカでも似たような傾向はありますが、ドクター、博士はより尊敬されるでしょう。


3.ポスドク1万人計画は、博士の過大なリスクをもたらした

 ポスドク1万人計画の後も、研究機関等で恵まれた研究をしている博士も存在します。しかし、ポスドク1万人計画により、一部の博士が就職すらままならなくなることは、世間のポスドクや博士を見る目を変えてしまいます。無職になったポスドクを見て、ポスドクはああいうものであるという観念が広がっていきます。

 昔なら、博士と大臣といずれが地位が高いかと聞かれたら、いずれも同じくらいという答えだったでしょう。しかし、今はこのような質問自体がおかしいと感じる人が多くなってしまいました。

 もちろん、これはポスドク1万人計画だけの問題ではなく、博士の数が増えたことによります。昔は、博士の数は少なかったのです。超エリート研究者だけが博士でした。

 ポスドク1万人計画に限らず、博士を増やすことに、理学博士、工学博士は抵抗できませんでした。博士を増やすことには、科学技術の振興という大義名分もあります。

 しかし、ポスドク1万人計画によるポスドクの増加は、博士の就職のリスクを大きくしました。社会の博士を見る目も変えてしまいました。優秀な人材が集まらなくなる効果は、徐々に出てくるでしょう。そして、日本の科学技術を蝕んでいくのです



II.ポスドク1万人計画は、理工系の将来を暗示している 

 博士に起こったことは、他の理工系についてもあてはまります。日本は、理工系離れ、理科離れ、理系離れを防止し、多くの人が理工系に進むようにしようとしているのです。日本の将来のために、理系の研究者や技術者を増員し、科学技術立国によって、日本の地位を高めてほしいという動きがあるのです。

 そのために、博士の数を増やしたのと同じように、理系の数を増やそうと、ありとあらゆる手段が用いられるでしょう。理工系離れ、理科系離れ、理系離れは問題なので、このこと自体は有益でしょう。しかし、博士と同じく、理系の待遇はますます下がっていくでしょう。入口の問題と出口の問題です。出口が狭いのに、入口を広くしても、経済原理に反することは実現できないのです。



 あらゆる手立てを尽くしても、社会の現実を知っている人の目はごまかせません。博士の増員は、博士の地位の低下となって、ちゃんと返ってくるのです。ポスドクを見る目は、確かな結果として、社会に根付いていきます。そして、若い人も、敏感に社会の流れを感じ取り、ポスドク離れ、博士離れをすることになるです。

 現代は、情報化社会であり、若い人たちは、はっきりと認識し、あるいは薄々と感じ取るのです。周りに博士に進学してポスドクとなり、どのようになったかを伝え聞くばかりか、インターネットで、ポスドクの将来がどうなるのかについて調べるのです。ポスドク1万人計画についてのページは山のようにあります。ポスドク1万人計画は、一部の人しか知らない言葉ではないのです。

 昔のようには行きません。もし博士離れを食い止めるならば、博士の社会的な地位や待遇を高めなければ難しいでしょう。出口の問題です。待遇の問題を無視して、博士離れ、理学博士離れ、工学博士離れ、理系離れを食い止めるのは、情報化社会が進んだ現代においては、難しくなってしまったのです。


III.博士離れは科学技術の進歩を妨げる

 博士への志望者が減ることによって博士の待遇が持ち直すのではないかという期待を持ったとすれば、その人は理系人間でしょう。博士になりたい人はたくさんいます。

 しかし、優秀な人材は、次第に博士、ポスドクを敬遠するでしょう。将来、ポスドク1万人計画と同じように、ポスドクの地位を下げる政策が実行されても、博士はなすすべがありません。そのような危険な道に進むことはできないでしょう。

 優秀な人材が博士離れをすることは、科学技術の進歩を妨げるのです。


IV.ポスドク1万人計画と、博士の待遇 

 博士離れを、その待遇を改善しないで食い止めるというのは誤った考えです。

 博士離れを、その待遇を改善しないで食い止めるというのは、博士を増やし、博士になりやすくすることです。ポスドクを増やすのと同じく、誰でも博士になれるようにします。博士の定員は確保でき、大学の経営はうまく行くでしょう。しかし、優秀な人材は入ってきません。

 人材の枯渇です。ポスドク1万人計画のように博士を増やせば、一時期は研究開発が盛んになるように見えます。人材の枯渇は見えにくいため、重要視されません。しかし、気づいたときには手遅れになっているでしょう。



V.ポスドク問題の解決策

 ポスドク問題は、その待遇の改善によって解決するしかないでしょう。就職難にならないように、受け入れ体制を作っていかなければなりません。

 アメリカのように、待遇の改善策として、博士号所持者に多くの給与を与えるようにすることが必要でしょう。民間ではすぐには難しいので、まずは公務員としてポスドクを雇い、公務員の給与を、博士号を持っていると相当に高くなるようにするべきでしょう

 このようなことを実現するには、博士だけではなく、理工系、理系の広範な連帯が必要です。

 ポスドクに起こったことは、他の理工系にも起こりえます。文理格差の是正も必要でしょう。博士離れと、理工系離れ、理系離れ、理科系離れ、理科離れ とは、関連する問題です。

博士を含む理工系を支援するポータルサイト「理工系.com」により詳しい情報がございます。



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